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「シックジャパンの風景」

他人事ではない環境汚染。愚かな「臭いものにフタ」。被害は回り回って…

 それにしても、なぜこのような重大問題が封印されてしまうのだろうか。もしこれが明るみに出てしまったら、日本全体がある種のパニックを起こしてしまうからかもしれない。なぜなら住宅建設で白アリ防除剤を使用するのは当たり前のこととなり、なかにはAさんの隣家のような「乱暴な現場の取り扱い」により、危険な問題を起こしているケースも多いからだ。
 もちろん住宅に使われる防腐剤や接着剤、化学建材などにも問題が多い。もしこれらにいちいちクレームを付けたとしたら、多大な影響が関連企業や社会全体に波及することにもなりかねない。
 また町内会や札幌市にしても、もしもこのようなひどい土壌汚染が知られようものなら、たちまち住民にパニックが起き、かつ地価が下がってしまうことを恐れているのかもしれない。
 しかし実際に、「毒漬け住宅」に苦しんでいる市民が現にそこにいるのだ。たとえ白アリ防除剤との因果関係が明解に科学的に証明できないとしても、この事実は、人道的な見地から考えても決して無視することができないだろう。

農薬の数百倍という毒物

 本紙ではそうした立場からこの問題を取り扱っていきたい。被害が大きくなってから問題に取り組んでみても、すでに遅いからだ。
 だいいち、白アリ防除剤や駆除剤が危険な農薬であることを全く知らない人も多い。だからこそ現場で無防備のまま、ペンキのごとく扱われることも多いのだろう。
 しかし白アリ防除剤の多くは、農薬とほぼ同じ成分を含む「神経毒性のある有機リン剤」で、しかも農薬に比べて(単位面積当たり)その濃度数十倍、有効成分はなんと数百倍もある毒物という。それが多量に床下に散布され、あるいは木材に塗られることにより、知らず知らずのうちに周囲の土壌や床下や住宅、また周辺の空気や地下水などを汚染する。快適空間を守るための対策が、皮肉にも長期にわたって毒ガスを発生する装置と化し、私たちの健康をむしばむ原因になっているのだ。

弱者切り捨て列島?

 これに対する行政や業者の言い分も、次に添えておこう。
 「測定値が基準以下だから健康異常など起こるはずがない」
 「被害と白アリ防除剤の因果関係は認められない」…。
 が、その基準値とは労働衛生上の基準値であり、もともと一般の生活者に適用してはいけないもの。またこれらの基準値は健康人を対象として設定されたものであり、感受性の高い子供や化学物質に敏感な人たちは最初から除外された上で基準値が設定されている。しかし肝心な問題は基準値という数字そのものではなく、「誰もがそこで安全に暮らせるかどうか」ということに尽きるだろう。
 実際、Aさんは95年に意を決して業者を相手に裁判を起こしてはみたものの「因果関係不鮮明」ということで敗訴となった。しかし毒ガス被害は、現にある。
 この事実に「それはAさん親子が特異体質だから」と切り捨てることもできようが、少なくても記者の周辺でも複数の者たちが、それぞれに同じく健康障害を経験した。これをも「特異体質論」をもって切り捨てるとしたら、「日本列島には毒ガスに強い者しか住んではいけない」ということにもなってしまう。
 こう考えると、行政や業者、司法の唱える基準値は、人権無視の基準値とも言える。これは「多様な人の存在を認めるエコロジカルな社会」とは決して言えない。

環境問題と病気の関係

 さて、本紙が問いかけたいものは、単にAさんの被害に限ってのものではない。日本列島全体が「毒ガス列島化」しているという恐るべき事実。農業における農薬や化学肥料の問題はいうまでもなく、公園や学校、グラウンド、住宅、ビル、オフィス、クルマ等々生活空間のすべてが、健康障害の原因、人体の汚染源になっているという隠された事実だ。
 これに対して北里大学医学部の宮田幹夫教授は、『このままだと20年後の人体汚染はこうなる』(カタログハウス刊)の本の中で、次のように述べている。
 「20年後には間違いなく神経、免疫、内分泌(ホルモン)のすべてに微量化学物質の影響が今以上に出てきているはずです。
 同じ病名でも、20年後には現在の病気と形が変わってくるはず。重症の病気の予備軍としての化学物質過敏症やアレルギーは増え続けているでしょう。
 ……すべての病気を、環境の問題から考え直す時代がくると思います」

キレるのも環境が原因?

 いまの社会から危険な化学物質を無くすることなどほとんど不可能な話だが、しかしその害をできるだけ少なくすることはできる。そしてそのためにまず取り組むべきは、Aさんのような明らかな被害者の叫びに謙虚に耳を傾け、かつ事実を事実として冷静に見つめることではなかろうか。
 なぜなら、Aさんの苦しみは決してAさんだけのものではないからだ。被害のその苦しみは、回り回ってやがてみんなのものとなる。それはもはや基準値がどうこうという問題ではなく、環境全体、社会全体の危機なのだ。
 それだけに立場それぞれの利害や面子から、「臭いものにフタ」をしてしまってはいけないと思う。
 宮田教授は同書の中で、「化学物質による環境汚染が体の内部環境の安定を損なわせて免疫や自律神経、内分泌(ホルモン)などの異常を引き起こし、そこから精神・神経・行動障害などが生じている」と述べている。つまり、注意力が集中できず、落ち着きがなく、キレやすくて凶悪な子供たちが急増しているその背景には、要するに環境問題も重要な一因として横たわっているというのだ。
 これは決して子供だけの問題ではなく、職場の大人にも、集中力の低下、意欲の減退、人間関係の喪失、記憶力の低下、とれない疲労感などの神経症状がすでに忍び寄ってきていると言う。人類の汚染した環境の影響が、体や神経の中にまで達しているのだ。
 さらに言う。「環境科学物質に影響されて起きる行動異常が、これからの大きな問題となってくると思います。異常な行動を示す子供は、加害者の面と、もしかすると化学物質環境の被害者の側面を持っている可能性もあるのです」
 深刻化する教育現場の問題を、制度やしつけだけで議論しても意味がない。そこには環境科学物質も深く関わっている。それなのにシックスクール問題は放置され、グランドの土壌汚染も無視され続けてきた。これでは子供たちが可愛そう。それだけに、汚染された環境を浄化し、構造的に汚染を撒き散らす社会システムを変革していくことこそ、まさに21世紀の緊急テーマとなってきそうだ。

→周囲の体験的被害メモ



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